無痛分娩について
無痛分娩とは?
お産の痛みは、子宮収縮による子宮の痛みと、膣や外陰部・肛門周囲が赤ちゃんの頭によって押し広げられる時の痛みに分かれます。
この痛みを和らげるお産が無痛分娩で、以前は麻酔薬の筋肉注射や、麻酔ガスを吸ったりする方法が行われていましたが、現在は腰に硬膜外カテーテルを挿入し、そこから麻酔薬を注入し下半身の痛みをとる硬膜外麻酔による分娩が最も一般的です。
当院でも、この硬膜外麻酔併用の分娩を行います。
『無痛』というと完全に痛みがなくなるように思われるかもしれませんが、100%痛みを取り除くことは難しいことです。
同じように麻酔をしても、個人差や麻酔薬の量・カテーテルの状況などで効き方にも差が出てしまうことがあります。一般的には、およそ三分の一の方が陣痛をほとんど感じなくなり、三分の一の方が痛みでなくとも違和感(お尻にズーンとくるなど)を感じ、残りの三分の一の方は痛みとして弱い陣痛を感じます。しかし、その痛みは我慢できないような痛みではなく、軽い痛み(通常の陣痛の十分の一くらいの痛み)として感じます。
このような場合は、正確には『無痛』というより『和痛』というべきかもしれません。
痛みの感じ方にも個人差があり、全ての方に無痛分娩をお勧めするわけではありませんが、痛みに弱い人にとっては、強力な自然陣痛の痛みは不安や恐怖感によるストレスを増やし、体力を消耗し、分娩の妨げになることもあります。
このような方に硬膜外麻酔を併用することで、苦痛感。疲労感を和らげ分娩進行がスムーズになることが期待されます。
硬膜外麻酔の副作用・デメリットは?
医療行為である麻酔には、ある程度やむを得ずよく起こる症状もあります。
① 足の感覚が鈍くなり、力が入らず歩きにくくなる→歩かないでベッド上で経過をみます。
② 血圧の低下による気分不快→多くは一時的ですが、薬剤で調整することがあります。
③ 尿意の消失・排尿困難→定期的に管で尿を採ります。
④ その他(かゆみ、母体の発熱、etc.)
その他にも、針を刺したり、カテーテルを挿入したりすることにより、稀ですが頭痛、血腫(内出血)、膿瘍(膿がたまる)ができたりすることがあります。また、薬が誤って血管の中に入ったり、誤ってカテーテルが脊髄くも膜下腔(本来、腰椎麻酔で薬を注入するスペース)に入り、薬が注入されるような危険性もあります。麻酔を行うときには、このようなことが起こらないよう注意深く行います。しかし万が一、このようなことが起きた場合には、早急に適切な処置を行い無痛分娩を中止することになります。
硬膜外麻酔による無痛分娩では、普通分娩に比べて分娩時間がやや延長する(時間が掛かる)傾向があることや、吸引分娩などが増えることなどが指摘されますが、医学的にはほとんど問題になることはありません。
また、硬膜外麻酔による無痛分娩が、胎児や生まれた新生児、授乳などに悪影響を及ぼす可能性はありません。
硬膜外麻酔の方法
血管確保(静脈点滴)後、生体モニター・胎児心拍監視装置を装着し、ベッド上で横向きになります。腰を丸くする姿勢をとり、消毒後、穿刺部位(腰の高さで脊椎の骨と骨の間)に局所麻酔薬を注射、そこに太めの針を刺し、この針の中にカテーテルを挿入していきます。カテーテルが適切な位置に入っていることを確認し、針だけを抜きカテーテルは残し背中に固定します。本格的な麻酔の前に、テストの薬を注入し、異常の無いこと・副作用の無いことを確認します。(副作用が無ければカテーテルは適切な場所に留置されていると判断します。)
分娩が開始し、陣痛が強くなれば、カテーテルから麻酔薬を注入し麻酔の開始です。最初は麻酔薬の少量分割投与で異常の無いこと・副作用の無いことを確認しながら始めます。この段階で体の変調(気分不快、めまい、吐き気、耳鳴り、口の中が金属っぽい味がする等)を感じた場合は、遠慮せず申し出てください。少しの変化でも、何かの予兆かもしれません。異常の可能性が高い時は、麻酔を中止し、適切な処置を行います。
麻酔薬は自動ポンプで持続注入しますが、鎮痛効果が弱い時には、薬の追加投与もできますので、遠慮なく申し出てください。
当院での無痛分娩の流れ
当院では、計画無痛分娩を原則としております。
- 妊娠32週以降の妊婦健診時に、無痛分娩の希望があるか最終確認を行い入院日を決定します。
(胎児の成長と子宮口の状態を考慮し、妊娠38週以降から分娩予定日くらいの計画無痛が基本となります) - 予定の前日に入院して頂き、その日の午後に硬膜外カテーテル留置と、初産の方で子宮口があまり開いていない方は、子宮口を広げるためのバルーン(ミニメトロ)を挿入します。(経産で子宮口が開いていない方は無痛分娩当日、バルーン(ミニメトロ)を挿入します)この日は、麻酔薬は使用しませんので、普通にお過ごし頂きます。
- 次の日(無痛分娩当日)の早朝から、胎児心拍監視装置・生体モニター装着後、出産まで食事は摂れないため点滴による補液管理をしながら、陣痛促進剤投与開始し、陣痛が強くなれば硬膜外麻酔を始めます。※日中に有効な陣痛が来なかった場合は、夕方で促進剤は中止して、翌日の朝から仕切りなおす場合があります
鎮痛のための麻酔薬は、持続的に一定量が自動的に注入されますが、もし効果が不十分な場合は申し出てください。麻酔薬の追加投与も可能です。もし、薬を増やしても痛みが軽減しない場合は、カテーテルが適切な位置に入っていない可能性が高く、カテーテルの入れ直しになることもあります。 - 硬膜外麻酔の影響で、足がしびれたり、力が入らないことが多いので歩行せずベッド上で経過を見ます。また、排尿も自力で困難なこともあり、定期的に管で尿を採ります。消化管の動きにも影響があるため、食事は取らず点滴で管理します。経過中、気になることや症状の変化があったときは、遠慮なくお申し出ください。
- さて、分娩です。麻酔効果が十分で痛みがない場合、いきむ(怒責)タイミングが分からないとか、上手にいきめないなどの状況もあると思いますが、医師・助産師がお手伝いしますので、頑張りましょう。
- 硬膜外麻酔は分娩時の傷の縫合時の痛みにも有効です。ほとんど痛みを感じないで傷の処置ができます。傷の処置が終わったら麻酔は終了です。麻酔薬の効果が無くなると、傷の痛みや後陣痛の痛みは感じますが、通常の痛み止めで対処します。
もっと詳しく知りたい場合
無痛分娩や硬膜外麻酔等について、上記説明以上にもっと詳しく知りたい場合は、
無痛分娩関係学会・団体連絡協議会(JALA)や日本産科麻酔科学会のホームぺージを参照頂くことで、なお一層のご理解が頂けるものと思います。(当院ホームページ上の同学会バナーからリンクできます)